ジョン・ミューア・トレイル(JMT)スルーハイキングレポート #4

白石店ウェア売り場の小林です。
2025年9月にアメリカのロングトレイル、ジョン・ミューア・トレイル(JMT)をスルーハイクしたレポートの第4弾。前回は1回目のリサプライポイントのレッズメドウ〜マンモスレイクスから、JMTを象徴するミューアハットまでをお送りしましたが、今回はその続きになります。

Day 12

起床、残念ながら雨は止みませんでした。昨日に比べれば小雨になっていましたが、山の上の方は怪しげな雲がたくさん。少量の雨でも標高3600mとなれば厳しい環境なる可能性もあり行動をするか悩みましたが、登ってみて駄目だったら戻ろうぐらいの気持ちでテントを撤収して歩き始めます。

急な崖に100段以上の岩のスイッチバックが続く「ゴールデン・ステアケース(黄金の階段)」と呼ばれる難所に到着したのですが、どんどん雨風が強まり装備がずぶ濡れに。これ以上進むのは危険と判断して撤退、パスの麓の雨を凌げる木の下にテントを張って潜り込みます。ひとまず濡れた服を脱いで保温着を着用。保温着の上から濡れた衣類を着て、自分の体温で乾かす着乾しを行います。
テントの中では特にやることも無いので、ダラダラと昼寝をしながら時折空を眺めて雨が止むのをひたすら待ちます。結局、降ったり止んだりを繰り返して、この日で雨は止みませんでした。

明日も雨だったら・・・と不安になりながら夜中に目覚めて空を見上げると満天の星空。明日は大丈夫そうです。

Day 13 – 14

昨日までの雨が嘘みたいな、雲ひとつない晴天で朝を迎えました。昨日はガスって全く見えなかったGolden Staircase ゴールデン・ステアケースからの眺め、岩肌の白と青空のコントラストが気持ち良いです。

Golden Staircase ゴールデンステアケースを登り切ると、Palisade Lakes パラセイズレイクスに到着。水の透明度が高く、とても気持ち良い場所なので少し休憩。

2日前からの雨でテントも濡れているのでしっかりと乾かします。水面が鏡のようです。

前方に見えるマザーパス Mather Passに向かって歩きます。

JMTの中でも1・2位を争う過酷なパス。スイッチバックが延々と続きます。

パスの最高地点にやっと到達。

マザーパス Mather Pass を下ってからはしばらくは穏やかな湿地帯が続きます。次に迎えるのは ピンチョットパス Pinchot Pass (標高3696m)。日暮まで時間があったのと、雨で停滞した分の遅れを取り戻そうと思い、1日で二つのパスを越えることにしました。

流石に疲れました。パスを下りてからは日暮近くだったので写真を撮る余裕もなく就寝。翌日はGlen Pass グレンパス(標高3644m) を越えます。後半になると3600m超のパスが続き、今までの疲労の蓄積、食糧不足などが相まって、かなりキツい状態で記憶も曖昧です。この日も疲れて就寝。

Day 15

翌日は最高峰のパス、Forester Pass フォレスターパス(3999m)を越えます。富士山よりも高い約4000m、未知の世界です。

今までと比べて明らかに高いです。カロリー不足で体が全然動かず、行動食を一口食べては登りを繰り返して少しずつ進みます。

やっとのことで最高峰に到着。

日本では決して体験できない、標高4,000mからの景色。

そこに広がる景色は、まるで地球ではない別の惑星にいるような感覚。
それと同時に、地球にはまだまだ自分の知らない、壮大な自然の風景が無数に存在するんだと改めて実感しました。

「ここまで来て、本当に良かった」

そう思えた瞬間でした。

絶景の中をどんどん下ります。連続で続いたパス超えはもう終わり。
最後に待ち構えるアメリカ本土の最高峰の山 Mt.Whitney マウント・ホイットニー(標高4421m)を残すのみ。標高3000m付近まで下ったところでテントを張って就寝。

Day 16

もう辛いパス越えが無いという安堵感と、もうすぐでゴールという高揚感で足取り軽く歩きます。

Bighorn Plateau ビッグホーン・プラトー SF映画に出てきそうな景色が続きます。

今までに何度も見たような景色ですが、それももう直ぐ見納めと思うと寂しくなってきました。今晩はゴールのマウントホイットニーに向けて、標高3500mの場所にテントを張ります。悪天候の場合はそこまで行かず、この辺りで凌いだほうが懸命のため、天気情報を収集のために最寄りのレンジャーセンターに向かいます。

レンジャーセンターの途中に、テントを張っているハイカーに遭遇。天気予報を尋ねると、「雨までは降らないが曇りだ。なので今晩は登らずここで泊まる」とのこと。

マウントホイットニーはJMTのゴールですが、アメリカの富士登山のような場所でもあり、御来光を見るための登山者が沢山集まります。自分は御来光への思い入れはそこまで無いので、予定通りテント場へ向かって登ります。

今晩のキャンプサイト、Guiter Lake ギターレイクに到着。その名のとおり上から見るとギターの形をした湖で、JMTの憧れの場所の一つです。

早速テントを張ってゆっくり過ごします。標高が高いため気温は低いが、日差しが強いので体感としては丁度良い気候。しかし、改めて見ると凄いロケーション。風が強い時には避けたい場所ではあります。ここから夜中に出発して、頂上で御来光を拝むのが定番ということなので、それに則ることにします。さすがに日が沈むと気温がかなり下がってきたので、持っているウェアをほぼ全て着て就寝。

Day 17

夜中、強風でばたつくテントの幕に身体を叩かれて起床。とても寒い中、ヘッドライトの灯りを頼りにひたすら登ります。頂上からの御来光には間に合いませんでした。

明るくなってきましたが、風も強くて寒い。今までのパスとは違って滑落注意な足場の悪い登山道が続きます。

マウントホイットニー頂上の標高14,505フィート(4421m)に到着。遂に全長350kmのジョン・ミューア・トレイルを踏破しました。

頂上からの景色ですが、強風と今にも雨が降りそうな雲に覆われ、終わった余韻に浸る余裕も無い感じです。とにかく寒い。


頂上には避難小屋があり沢山の人が中で暖を取ったり食事をしていました。行く前からやると決めていた、建物内の窓ガラスと外の記帳台に秀岳荘のステッカーを貼ってミッション完了。雨に降られる前に早々と下山します。しかし、10日間ほどシャワーも髭剃りも出来なかったので、見た目が酷いです。

登る時は夜だったので、景色を楽しみながら下ります。

昨晩のキャンプサイト、ギターレイク。確かに湖がギターの形をしています。

だいぶ下りてきましたが、4421mから一気に地上まで下るのでとにかく長い。
後ろを振り返るたびに、「よくこんなとこ登ったなあ」と感傷に浸りながら延々と歩きます。

ようやく麓のキャンプ場に着きました。
夜中から歩いていたので行動時間10時間は優に超えてフラフラでした。

食堂があったのでご褒美のハンバーガーを注文、とてつもないボリュームでしたがペロリと完食。

だんだんとアメリカ人になってきた気がしました。

ここから日本に帰るためには最寄りの町 Lone Pine ローンパイン に行く必要があるんですが、公共の交通機関は一切無し。そんな訳でアメリカ人になった気持ちでヒッチハイクをします。道路脇で笑顔を意識して親指を立てますが、車は無常にもスルー。幸いキャンプから帰る人たちも居るので、車の通りは少ないですがあります。2台目、3台目と次々通り過ぎていきます。無理もありません、かなり酷い身なりをしているので僕なら乗せません。じっと立って待っていても仕方ないので、移動しながら車が通るたびに親指を立てます。映画のシーンであるようなピックアップトラックの荷台に乗れたら最高だなあと思いながら歩いてたら、5台目ぐらいで停車。止まった車は予想の斜め上のテスラ。荷台に揺られてどころか、エンジン音が一切しない静寂な快適ドライブ。乗せてくれたのは中華系の老夫婦で、町にあるバス停の場所まで調べてくれたりとても親切でした。

Lone Pine ローンパイン の町に到着。

この日のバスはもう終了していたので、今夜はこのホテルに泊まることにします。

チェックインを済ませたら、真っ先にシャワーを浴びて髭を剃る。近くのランドロマットで溜まった衣類を洗濯し、グロッサリーストアでは「食べたいもの、飲みたいもの」を思う存分に購入。至福の時間です。

その後、アウトドアショップにも立ち寄りました。
店員さんに「ついさっきJMTを歩き終えたばかりなんです」と話すと、「Congratulations!」と声をかけてもらいました。

その一言がとても嬉しくて、その瞬間にようやく実感しました。

「本当にJMTを歩き終えたんだ。」

長い旅の終わりを、Lone Pineの町で静かに噛み締めました。

日本に帰るまで

ローンパインのホテルではMTBで旅をしている老人と同室になり、何故か一緒にビートルズのドキュメンタリー番組を観て過ごしました。

帰りの飛行機までは日にちがあったので、翌朝のバスでリサプライで寄れなかったBishop ビショップの町に行ってみることにしました。

ビショップはコンパクトな町ですが、沢山のアウトドアショップ、行列のできるパン屋さんや雰囲気のある映画館などが並び、治安の悪そうな区域も無く、とても住み心地の良いところでした。

泊まったのはハイカーフレンドリーで有名な ザ・ホステル・カルフォルニア。ここを拠点に町を探索したり、庭で食事しながらのんびりと過ごし、あまりにも快適だったため2泊することにしました。

2日目に同室になった日本人Mさん。なんと僕がJMTに旅立つ前に書いていた秀岳荘ブログを読んでいて、僕のことを知っていました。ここで2連泊しないと出会えなかったので、何か運命的なものを感じました。彼はJMTを歩いてる途中でリサプライのためにこの町に下りてきたとのこと。その夜は一緒にお酒を飲みながらいろんな話をし、途中で旅行中のフランス人も参加して楽しく過ごしました。Mさんは翌日のトレイルヘッド(登山口)まで、そのフランス人に送ってもらえることになったり、いろんな出会いが交差する思い出深い場所になりました。

その後はバスでハリウッドへ向かって2泊して観光。3日目にロサンゼルス国際空港から日本へ帰国。

長い旅が終わりました。

JMTは思った以上にアップダウンが激しく、さらにリサプライ場所がクローズしていたというトラブルもあり(これは完全に自身のリサーチ不足)、想像以上に過酷な山行となりました。

正直、後半は「もう日本に帰りたい」と思うこともありました。それでも、海外ロングトレイルだからこそ経験できたことが無数にありました。

長い距離を歩き続ける中で感じる身体や心の変化、人々との出会い、そして日本ではなかなか味わえない壮大なスケールの自然。

そして不思議なことに、日本に帰ってきて少し時間が経つと、また海外のトレイルを歩きたいという気持ちが湧いてきています。

少しでもロングトレイルに興味を持っている方がいたら、ぜひ一度、海外のロングトレイルにも挑戦してみてほしいと思います。

大変なこともたくさんありますが、それ以上に「行ってみないと分からない」ことがたくさんあります。

「いつか歩いてみたいけど、何から始めればいいのか分からない」
「海外のトレイルはちょっと不安……」

そんな方がいれば、分かる範囲でお答えしますので、気軽に声をかけてください。

また次のトレイルを歩いて、ブログで報告したいと思います。

終わり