剣岳 ケンの記 其の弐 [源次郎尾根1峰平蔵谷側上部フェース・成城大ルート]

白石店カヌー売場のK山ケン○です。

3日目の8/5はいよいよ剣岳アタック

前回の[剣岳 ケンの記 其の壱]はコチラ↓

深夜に起床して、まだ暗い中で手短に朝食を済ませて出発。
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剣沢小屋を超えて少し下ると剣沢雪渓が見えてくるが、
轟々と音を立て滝状になっててシュルンドに落ちていく雪解け水を見ると、
とてもその上の雪渓に降りる気になれず、暫くは右岸を並走。
程無く轟音も消えて硬く締まった雪渓になって来たので、
クレバスを渡れそうな所を見つけて乗り移り、アイゼンを履く。
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ここから源次郎尾根取付までは雪渓も安定しクレバスも無く
不安なくその上を歩く事が出来た。

雪渓の上は空気がヒンヤリして寒いくらいだった。
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暗闇の中だったが、GPSのお陰で迷う事なく尾根の取付へ着く。
暫くは急登の藪漕ぎが続いたが、
ジャングルジムの様なうねる幹の樹木を攀じ登ったりしていると
程なく尾根の難所と言われる岩が現れた。

見上げた岩は10m程のスラブ。取付いてみると案外悪い。
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短いけれど感覚的には赤岩のテーブルリッジの3級+位はありそう。

今回のメンバーは私も含め一応5.13を何本も、
Nさんは5.14もRPしているが、
念の為、微妙な所はTOPは2本程ある残置ハーケンにセルフを取って攀りながら
フォローの為にお助けスリングを掛けて行き、フォローはそれを手掛かりにした。

私達はコレで事無きを得たものの「一般の人はどう登るんだろう?」
真っ暗で周囲が見えないけれど、
もし転げ落ちたら後ろの奈落の谷へ落ちて行きそう…

多分パーティにある程度登れるメンバーが居て、
上からFIXロープを垂らすでもしないと危ないのでは無いだろうか?
出来ればフォローはタイブロックでも有れば安心だと思う。
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こんな箇所を3,4箇所通過するとリッジ状の岩尾根に出て、
徐々に周囲も明るくなってきた。
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遥か下には歩いてきた剣沢雪渓

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眼下に雲を見ながらリッジを攀る。
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対岸には別山かな?の勇姿
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周囲の山がモルゲンロートに染まる
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リッジ状の岩尾根。ひたすら詰めて1峰手前のコルへ
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もう一息だよ

広場状の1峰手前のコルに出ると
遂に目的の平蔵谷側上部フェースが現れた。
ここで一息入れてフェースを眺める。
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後ろの岩壁が平蔵谷側上部フェース。デカいなぁ。

ここから源次郎の尾根を離れ中央バンドに向けトラバース
…するのだが、途中で踏み跡は消えてしまう。
その先は、濃い這い松と下部壁へ落ちる絶壁。
一体どこをトラバースして行くんだ⁈

何度も行きつ戻りつしても、それらしい所は見つからない。
「もう少し上だったのか?」と一度尾根まで戻り、
少し尾根を詰めてみるが、中央バンドが眼下になってしまった。
オカシイ⁈とまた踏み跡へ戻る…
そんなこんなをしている内にどんどん時間が経っていく…

結局、這い松を中央突破するしか無いとの結論に達し、
擦り傷だらけになりながら、
滑る急坂を崖に落ちない様に這い松にしがみ付いて、
何とか中央バンド側に出る事が出来た。

しかし、中央バンド側へ出ても、今度は急で微妙な草付きが続く。
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ここは這い松みたいな確かな手掛かりが無いので、
心許ない草を束で握ったり、土に指をめり込ませたりして
慎重に進み、やっと中央バンドへ。

しかし、バンドから壁を見上げると、とてもデカい。
幅は数百メートルはあるだろうか?
今度は”成城大ルート”の取り付きを探すのに手間取る。(汗)
バンドは左上がりの急登なので、行き来するのも一苦労だ…
危ういハイボルダーみたいな岩をフリーソロさせられたりして、
やっと取り付きを見つけて準備をする。

源次郎尾根のコルを離れてから数時間経ってしまった…
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やっとクライミングができます…

◎クライミング用語のご参考に↓◎
[山ペディア]
[CLIMBING NET]

◎山岳地帯の地形など↓◎
[語源別山岳用語一覧]

[源次郎尾根1峰平蔵谷側上部フェース・成城大ルート]

■1P目[Ⅲ級+]/トップ:Tさん■
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テラスの右から凹角を上がるが、出だしがちょっと悪かった。


■2P目[Ⅳ級]-3P目[Ⅳ級]/トップ:Nさん■
右側のカンテ状フェースから上の凹角沿いのフェースへ繋ぐ。
各20mと短いので、ここは2-3P繋いで貰い、時短。
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多分3P目終了点から。眼下に中央バンドと剣沢雪渓。

■4P目[5.10a]/トップ:K山■
このルートの核心ピッチ。アルパインだけどデシマルグレード。
「成城大ルートから剣岳に登ろう」と言い出したのは私なので、
成り行き上、私がトップを行く事になった。
しかし、出だしの立ったスラブのトラバースが結構コワい…
甘いホールドを花崗岩特有の細かいスタンスで
最初ちょっとクライムダウンしてから小ガバに手を伸ばす。
ここが最初非常に緊張して、中々出られなかった。
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その後も残置ハーケンと、
薄っぺらくて動くフレークに#0.3のキャメで耐え、
各5〜7mランナウトのトラバースが続く。
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なまら緊張する…

足下は中央バンドまで、有に100m以上スパッと切れ落ちている…
「何でココに行こうって言ったんだろう?」と後悔しながら
ジリジリとフレーク帯を更に15m程トラバースしてから、頭上の草付きへ左上、
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ここに“コレが終了点⁈”という、古いRCCと浮いたリングボルトが各1本…
近くには補強でカムやハーケンを打てるクラックやリスも無い。

「コレで支点作ってハンギングする気にはとてもなれない…」
ましてや3人でぶら下がるなんて考えたらゾッとする。
足元は100m以上の崖だぞ⁈

頭を冷静にして周囲を見回すと、15m程上に灌木帯がある。
見ると這松も混じっているみたいだ。
しっかりした這松や灌木があるなら、あっちの方がずっとマシでは?

意を決して後ろの2人へコレを告げ、ロープを伸ばす。
草付きから小カンテ状のフェースを回り込んで
浅くて微妙な縦フレークを手掛かりにバランシーなムーブで
カムをねじ込んで緊張のランナウト…

何とか辿り着くと、果たして頑丈な這松と2m程上に結構太い灌木が。
取り敢えずコレで大丈夫そうではあるけど、更に何か無いか?
と、這松の左の岩の土を手でほじくると、
#2のキャメがバチ効きのクラック…やった!
この3点で強固な支点が作れ、安堵して「解除!」のコール。

フォローの2人も登ってきて開口一番「よく行ったね〜!」
13/14クライマーが苦労する5.10aって…⁈
まぁ、冷静に考えるとムーブの強度は確かに5.10台なのか?
やっぱりこの高度感とプアなプロテクションでのランナウト、
つまり気持ち核心なのだろう。
強いアルパインクライマーならサラッと行っちゃうんだろうな…

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高度感満点の4P目終了点
登ってくるフォローが小さく見える


■5P目[Ⅴ級]/トップ:Nさん■
私が少し5P目に食い込んでピッチを切ったせいで
とても短くなってしまったけれど、
出だしも危うく、脆いフレークを繋ぐフェースも緊張する。
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5P目をフォローで登る私。
頭上にビレイするトップのNさんが見える。


■6P目[Ⅳ級]/トップ:Tさん■
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5P目終了点から左上にあるクラックが走る綺麗なフェースを登り、
その上の這松帯を突っ切って広場状のテラスでピッチを切る。
這松が豊富にあり、足場も安定しているので支点も問題なく作れる。

4級だけど凄い高度感と案外細かいホールドで
やっぱりグレード以上に悪く感じた。
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6P目の出だし

北海道には花崗岩が殆ど無いので、
結晶粒を押さえたり、スメア状に乗り込む独特のムーブに
私達が慣れてないせいもあるのかも知れない。

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高度感満点の綺麗なフェースを登っていくTさん。

6P目終了点のテラスはとても広くて、
高い崖の上に居るのを忘れてしまいそうな程。
ここで一息入れて私が7P目に取り付くが、
どうも頭がボーッとして足元がフラつく…危ない。
一旦テラスへ降りると、どうやら脱水症状の様だ。
この時間になると、壁に陽がジリジリ照りつけて灼熱。
水は北海道の山より多めに持って来たつもりだが、足りなかった様だ…
情けない話だが、私より豊富に水を担いできたTさんに少し分けて貰い、
このピッチは元気なTさんにお願いして、順番が来るまで休憩した。
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6P目途中から終了点のテラスと、
7・8?Pを見上げる。1峰の岩頂も見える。


■7P目[Ⅲ級]/トップ:K山→Tさん■
這松横の緩いスラブ岩を登って、
少し被った岩に頭を押さえられたら左側からその側壁を抜け、
ガレ場を落石を起こさない様に慎重に登って小テラスで切る。

■8P目[Ⅲ級]/トップ:Nさん→Tさん■
Nさんもちょっとバテ気味だったので、
元気なTさんにそのままトップで登って貰った。
小テラス上の被りを少し登ってチムニーを抜ける。
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チムニー内に#2を決め、グイグイ登って行くTさん。

トップのTさんから中々合図が来ない。
ルート取りに迷っているのだろうか?
ロープの出方もしばらく止まったと思ったらまた出たり…

暫くして残り少なくなったロープがスルスルと上がり出して
明らかに引き上げ出した様子だったので、
最後はNさんと同時登攀でTO。

何とか3人無事で成城大ルートを終える事が出来た。
大きな充実感があって余韻に浸りたかったけれど、
もうだいぶ陽が傾いて来ている。
まだ山頂はずっと先だ。これは夜になっちゃうな…

そそくさと登攀ギアを片づけて、先を急がねば。

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ブログも2回で終わりにしようと思いましたが、
忘備録的に綴っていると大変長くなってしまったので、
こちらも一回ピッチを切らせて頂く事にします…スミマセン(汗)

[其の参へ続く]