あなたも山で働いてみませんか?
山に関わる30人の仕事を紹介。
山小屋の支配人はどのくらいの頻度で山を下りるのか、大量の食材をどう調達しているのか、家族は、収入は、山以外の生活、勤務体系はどうしているのかなど、なかなか知ることのできない山の仕事のリアルが赤裸々に綴られた。進路や生き方に悩む人の選択肢を広げ、そっと背中を押す一冊。
山小屋管理人/クライミングインストラクター/歩荷/登山ガイド/長野県警察山岳遭難救助隊/山岳医/山岳気象予報士/ロープ高所作業者/山の電気屋/登山プラットフォームのプロダクトマーケティングマネージャー/登山道整備士/アクティブレンジャー/環境コンサルタント/樹木医/木の製材業、木の地産地消/伐採業、資源のリサーチャー/森林ディレクター/猟師、ゲストハウス運営/地質研究者/山岳氷河研究者/山岳建築研究者/山岳写真家/山岳映像作家/山岳ライター/ハイカー/山の漫画家/山の絵描き/アイスクライマー選手/登山家/山仕事コーディネーター
商品説明
1章 山の遊びを支える
・登山ガイド(大島わかな)・・・顧客を楽しませながら、安全に山へ案内する
・山小屋支配人(新井航平)・・・山小屋のリーダーとして、スタッフが働きやすい環境を整える
・クライミングインストラクター(佐藤雄大) ・・・ジムに来てくれるお客さんの、クライミング人生に寄り添う
・歩荷(萩原雅人)・・・山小屋へ、必要な必要な荷物を背負って届ける
2章 山の安全を守る
・警察山岳遭難救助隊(出澤俊樹)・・・遭難者の救助と遭難防止の活動を行う
・山岳医(大城和恵)・・・登山技術を備えた医師として、山でのリスクに医学で立ち向かう
・山岳気象予報士(林真哉)・・・講習会やイベントを通じて登山者に天気の楽しさを伝え、気象遭難を防ぐ
・ロープ高所作業者(伊藤徳光)・・・ロープを操り壁に張り付いて、土木インフラの安全を支える
・登山アプリのプロダクトマーケター(﨑村昂立) ・・・届け方を問い続ける、「YAMAP」のマーケティング
・山の電気工事士(山口浩喜)・・・山小屋のライフラインを支える、登山するエンジニア
3章 山の健康を守る
・環境省 アクティブ・レンジャー(松下裕之)・・・国立公園のパトロールや調査など、主に野外の現場業務を担う
・環境コンサルタント(吉田聡)・・・動植物調査や自然公園の計画策定などを通じて、自然環境の課題を解決する
・樹木医(片岡日出美)・・・樹木の声に耳をすませ、長生きのお手伝いをする
・登山道整備士(長谷川悟)・・・見えない調整力で、登山道を守る
4章 山の素材を調べ、活かす
・伐採業、資源のリサーチャー(安江悠真)・・・森を調べて使い道を探り、素材や空間の活用方法を考える
・製材業、木の地産地消家(山口直)・・・地域の仲間と協力して、地元の山と木を活かす
・森林ディレクター(奥田悠史)・・・森に関わる課題を解決するアイデアを考え、カタチにする
・地質研究者(山岡健)・・・実地での観察と分析を往復し、見えない地層を地図にする
・山岳氷河研究者(佐藤洋太)・・・世界をフィールドに、山にある氷河を研究する
・山岳建築研究家(小黒由実)・・・山に登りながら、建築にまつわる研究・制作をする
・猟師、ゲストハウス運営(武重謙)・・・山での狩猟体験を、いろいろな形で語り伝える
5章 山の魅力を伝える
・山岳写真家(高柳傑)・・・山に登り、山の風景やプレイヤーを写真に表現する
・山岳映像作家(井上卓郎)・・・山や自然を軸とした、多岐にわたる映像をつくる
・山岳ライター(柏澄子)・・・日本全国の山を対象に、取材・執筆をする
・ハイカー(高倉悠祐)・・・山を舞台に、自然の世界の魅力を発信する
・山の絵描き(﨑山あいり)・・・登ることでしか見えない景色を、絵にする
・山の漫画家(じゅごん大輔)・・・登山の魅力を、漫画で伝える
6章 山を舞台に限界に挑む
・アイスクライマー選手(門田ギハード)・・・「人工壁」と「大自然」をフィールドに、挑戦し続ける
・登山家(野村良太)・・・山を舞台に自分を表現する
7章 山を舞台に限界に挑む
・山仕事コーディネーター(松見真宏)・・・山で働きたい人と山の仕事を担ってもらいたい人の懸け橋になる
編著者
松見 真宏(マツミ マサヒロ)・・・山仕事コーディネーター
1991年静岡県生まれ。沼津工業高等専門学校物質工学科卒業後、山の魅力にはまり、信州大学農学部森林科学科へ編入。「365日山にいたい」という想いから、山で働く人を訪ねて歩き、2016年に屋号「山屋」として開業。個人で様々な山の仕事を請け負う。2021年に株式会社山屋を設立し、「山仕事コーディネーター」として、ガイドやクライマーをはじめとする登山を愛する人たちとともに、山の課題解決や創造的な事業に取り組んでいる。
X:@nature1118_life
株式会社山屋X・Instagram:@yamaya_corp
まえがき
「山で働きたい!」───そう思ったとき、どのような仕事が浮かぶだろうか。林業、登山ガイド、山小屋スタッフ。ここで想像が止まるなら、本書はあなたにとって驚きと発見に満ちた一冊になるかもしれない。
情報の多い現代でも、山の仕事については知名度の高い職種以外は検索しても輪郭がつかみにくい。しかし一歩、実際に山に入り、現場で働いてみると、仕事の広がりは想像を軽々と超えてくる。山小屋の設備をメンテナンスする電気工事士、岩石を採取して地質を記録する研究者、食べられる植物を調べて採集するフィールドワーカー。登山道を補修する専門チーム、食料や資材を背負って運ぶ歩荷、山の魅力を様々なかたちで伝えるクリエイターたち───「山で働く」は、じつはこんなにも多様だ。
現在、私は「山仕事コーディネーター」(309頁)という肩書きで仕事をしているが、その出発点は十代後半の登山だった。山に近い場所で学びたい一心で、大学の編入制度を使って長野県へ移り住み、卒業後は木材の会社に就職した。しかし「登って働く」という願いを捨てきれず、会社を辞めて山に飛び込む道を選んだ。
事前に図書館で関連書を片っ端から読み、インターネットでも調べ尽くしたつもりだったが、そこで語られる「山の仕事」の多くは林業に集約されていた。視野を「自然」の領域まで広げれば、自然保護官やネイチャーガイドにも行き当たる。けれど、私個人の「山に登って働き、できれば街には降りずに自然の中に入り浸る生活がしたい」という強い欲求を満たす具体的な道筋は、その時点では見えなかった。
転機は、山々を歩き回る中での出会いから「山岳遭難防止常駐隊」に入れてもらえたことだ。夏のあいだ北アルプスの稜線の山小屋に滞在し、遭難防止活動を中心に務める仕事である。稜線の生活で見えたのは、季節をまたいで山に関わり続ける人々の姿だった。
休憩や作業後に話を聞いて回るうちに、自分の「山の仕事」像がいかに狭かったかを思い知った。隊員も夏が終われば別の現場へ向かう。声が掛かれば私はどこへでも行った。職種が違えば、必要な技術も求められる体力も違う。同じ仕事でも、季節で難易度が変わる。目的や個人のライフスタイル次第で、働き方は無数に枝分かれしていた。
いくつかの山の仕事を組み合わせることで、暮らしと折り合いをつけながら山で働き続けることができる。一つの肩書きに固定されない柔軟な働き方が山ではあり得るのかもしれない。―――その実感によって、私はこの領域の本当の面白さを知ることができた。
これは私個人の一例にすぎない。では、これから山で働きたい人はどうすればもう一歩踏み込めるのか。どこで基礎を学び、何を準備し、仕事をどうやって確保すれば生活の見通しが立つのか。私自身も同じ問いに何度も行き当たり、試行錯誤を重ねてきた。そして分かってきたのは、山の仕事の始め方は一つではないという事実である。短期の求人に応募する人、現場に同行してゼロから学ぶ人、街の仕事で培った専門技術を持ち込み山の専門家としてポジションを確立する人。それぞれの「得意」が山の課題と結びついた瞬間、道は必然的に拓けていく。
本書は山の仕事を7章に分けて初めて体系化し、まとめた実用ガイドである。山にずっと入らなくても、山に関わる仕事を広く山仕事ととらえ、私を含む30名の現役の仕事人が、現場の生の声として仕事の実際を赤裸々に綴った。
これから紹介される多様な実例が、山で働きはじめたい人、かつて諦めた人、まだ選択肢が思い浮かばない人の経験や興味とつながり、次の一歩へと背中を押すことを願っている。そして、かつて山で働く人を訪ね歩き、様々な話を聞いたあの胸躍る経験を追体験するように、読者の皆さんにも山仕事人を巡る旅に出たような気持ちで本書を読み進めてもらえれば嬉しい。山の仕事の現場へようこそ。
松見真宏